~ただのミュージカルと思うなかれ~『ピピン』(2022/9/25@オリックス劇場)【観劇レポ/感想】

舞台レポ

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こんにちは、しろこです。​

今年の5月に行った霧矢大夢さんのライブ。
​そのときのMCで、「次回大阪に来るのは、9月の『ピピン』です」とおっしゃっていました。

​「久しぶりに霧矢さんを舞台で観たーい!」思い『ピピン』の詳細を調べたところ、会場がオリックス劇場じゃありませんか。。(オリックス劇場についてのコメントはこちら↓の記事をどうぞ(~_~;))

​やっぱチケット取るのやーめた。

​で、しばらく『ピピン』のことは忘れていたんです。

​それから数ヵ月後、情報誌だったかネットだったかで『ピピン』の魅力が紹介されており、「う~ん…いい席がまだ残ってたらやっぱりチケット取ろうかな。。」という気になりました(あの記事を書いた方、1人の読者の心を動かしましたよ!)。

​早速カタカタ・・・(プレイガイドのHPをチェック)

​「・・・めちゃめちゃいい席がいっぱい残っとるがな(苦笑)」

​ええっと、はい、チケットの売れ行きが芳しくなかったようです。。現に私が行った日も、日曜日の昼公演(トークショー付き)だというのに、当日券は販売されてるし客席も空席が。。( ;∀;)

​でーもー!!

​幕開きから大興奮!!

​こんな舞台観たことない!!

​ただのミュージカルではありません。歌、芝居、ダンスに、アクロバットとイリュージョンが加わった総合エンターテイメント!!

​宙組『HiGH&LOW』の観劇レポで引用したあらすじに、『総合エンタテインメント・プロジェクト』なんて書いてたのが恥ずかしいと思っちゃったわよ。レベルが違いすぎ(-_-;) いやいや、比べちゃいかんけど。

日本初演は2019年。今回は3年振りの再演だそうです。はたして再々演はいかに!? 観たことがない方もミュージカルにはアレルギーのある方も、一見の価値ありですよ!

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参考情報

あらすじ

神聖ローマ帝国の王子ピピンが、大学で学問を納め故郷に戻ってきた。人生の大いなる目標を模索する彼は、父王に認めてもらおうと戦への同行を志願する。意気揚々と参戦したものの、戦の空虚さに気付いたピピンは、もっと別の<特別な何か>を求めて旅に出る。そんなピピンに祖母バーサは「悩んでばかりで大切な人生を無駄にせず、人生を楽しみなさい」と説く。彼女に感化され、旅を続ける中で享楽的な愛に耽るが、心を伴わない愛では心を満たすことはできないと知る。人生に絶望し行き倒れていたピピンを救った女性と幼い子供。彼女たちと過ごす中で何かが少しずつ変わっていくように思えたが、毎日が平凡に過ぎることに耐えられなくなったピピンは、再び旅に出る。旅の最後、ようやく彼が気が付いたこととは・・・。

美しくカリスマ的なリーディングプレイヤーが率いるアクロバットサーカス一座が、人生の目的を探し求めるピピンの壮大な物語を披露します。

主な配役

ピピン:森崎ウィン
帝国の王子に生まれながら、何一つ不自由ない環境に疑問を持ち、本当の幸せを求めて城を出る。

リーディングプレイヤー:Crystal Kay
一座の主演を務める、美しくカリスマ的な狂言回し。ピピンを導くミステリアスな存在。

チャールズ:今井清隆
ピピンの父。神聖ローマ帝国皇帝として、領土拡大を目指して侵略を続ける。

ファストラーダ:霧矢大夢
若く妖艶な、チャールズの後妻。実息ルイスに王位を継がせようと画策する。

キャサリン:愛加あゆ
幼い息子テオを女手一つで育てる未亡人。旅先で行き倒れたピピンを助け、一緒に暮らす。

ルイス:岡田亮輔
ピピンの義弟。精悍な戦士だが頭は少し弱い。

バーサ:中尾ミエ
ピピンの優しい祖母。本当の幸せを探すピピンに、幸せについて説く。

テオ:高畑遼大
キャサリンの息子。心優しい少年。ペットのアヒルが親友。

上演時間

1幕:80分、休憩:20分、2幕:60分(私が行った回は、Crystal Kayさん、中尾ミエさん、愛加あゆさんのアフタートークショー20分付き)

豆知識

幕開きから、サーカス一座が『ピピン』の物語を演じているという劇中劇の構成です。サーカス団のテントに見えるように、あえて舞台の左右と上部の余白を少なくしたセットになっています。そのため、端の席や2階席以上は、舞台の一部が見えにくいのではないかと思います。また、男女間の結構際どいシーン(ダンスや振り)もあるので、お子様連れの方は内心焦るかもしれません(^O^;)

感想

​これは​ただの​ミュージカルじゃない。

いわゆる、歌と芝居とダンスで構成されたよくあるミュージカルかと思っていたから、幕開きから度肝を抜かれました。

超本格的なアクロバットサーカス!

それもそのはず、観劇後に帰って調べて知ったのですが、本場ブロードウェイの『ピピン』に出演しているオライオン・グリフィスさんという方が日本版にもご出演とのこと。この方、サーカス一家に生まれて4歳からパフォーマンスを始め、サンフランシスコで自分のサーカスショーを制作しているとな(@_@;)!!

男性も女性も、柔軟で俊敏な生身の肉体から繰り出される技の数々に大興奮。舞台の右でも左でも上でも下でもやってるもんだから、どこを見ればいいんだ状態でした。

ひときわ小柄な軽業師の女性なんて、どのアクロバットシーンでも投げられるわ落とされるわ、舞台上を文字通り飛びまくっておりました。1度失敗しましたが、Crystalさんが上手くカバーして再チャレンジ。見事成功したときは拍手喝采でした。

首の後ろを引っ掛けて吊られる技もあったんですが、あれ、首で全体重を支えてるってことですよね。。私は首が弱いので、見ていてゾクッとしました(> <)

なぜか幕開きのアクロバットシーンで涙が出てきましてね。全然泣くようなシーンじゃないんですけど(^_^;) なんというか、そこに至るまでの努力とか、葛藤とか、自分との闘いとか、いろんなことに思いを馳せてしまって。歳とった証拠かなー(苦笑)

そんなこと、ありませんか? 普通に考えたら全然泣くところじゃないのに、なぜか泣けてきちゃうこと。私はこないだも『メリー・ポピンズ リターンズ』を見ている時に、楽しいシーンのはずなのにボロ泣きしました。。

アクロバットパフォーマー以外の出演者もアクロバットを披露します。

中でも、バーサ役の中尾さん(前田美波里さんとWキャスト)のアクロバットは衝撃でした。

中尾ミエさん、御年76歳(劇中歌の中でご自分でそう歌っています)。

ドレスを脱ぎ捨てレオタード姿になった中尾さん。上から空中ブランコが下りてきます。

・・・んんっ!?

屈強な男性パフォーマー(あれがオライオン・グリフィスさんかな?)が先にブランコに乗り、続いて中尾さんもブランコへ。

そうだよね、支えがないと乗るだけでも怖いよね・・・と思っていたら、空中ブランコの上でのけぞり、片手片足を持って吊り下げられ、床と体が完全に平行のうつ伏せ状態でも吊られ(ブランコ上の人が両手で中尾さんの腰を持って支えている)、挙句の果てに完全な逆さ吊りで・・・歌うっっっ!!!

自分の目の前で繰り広げられていることに、脳がついていきませんでした。万一のために別の男性パフォーマーが下で待機していたけど、ヘルプすることはありませんでした。

終演後のトークショーで、Crystalさんが中尾さんの上腕二頭筋がすごいとおっしゃっていましたが、腕も背中も肩も、客席からでも線がはっきり見えるほどの筋肉!

2019年の初演にこの役で出演することが決まったときに、「私あんなのできないわよ。日本版ではアクロバットはないでしょう?」と聞いたそう。そしたら、「いえ、同じことをやります」という回答。そこからトレーニングして初演でアクロバットを披露。初演時に、3年後に再演することが決まっていたらしく(そんなことあるのね。。)、3年間筋肉を落とさないように毎日トレーニングをしていたそうです。

「皆さん、いくつになっても筋肉はつけられますよ」とは中尾さん談。ものすごい説得力でした。

リーディングプレイヤー役のCrystalさんも、歌うし踊るし空中フープ(というのかな? ブランコではなく輪っか)でアクロバットをするし、フラフープも操るし、多彩のひと言に尽きる!

体のラインに沿った衣装で、出てきた瞬間から「めちゃくちゃキレイな体してるな~」と思って見ていました。

10代から20代にかけて歌手として活動していたイメージしかなかったので、踊れるし、アスリートみたいな体だし、この人は一体何者なんだろう。。と思っていたら、トークショーを聞いてびっくり。中尾さん同様、初演の『ピピン』でリーディングプレイヤーを演じることになってから、ダンスもアクロバットも猛特訓したそうです。しかも『ピピン』が初舞台。頭が下がります。。

一人だけ黒尽くめの衣装で、すごいアイメイク(中尾さん曰く、「私のメイクが薄いんじゃないかと思えてくる」)をしているので、見た目からして異質な雰囲気を漂わせておりますが(注:どの出演者も異質です(ーー;))、存在感が際立っていました。ファンになっちゃったよ~♪

ファストラーダ役の霧矢大夢さんもレオタード姿でのダンス。今でも頭の上まで真っ直ぐ足が上がっておりました。それに、声の説得力というか、宝塚時代から彼女の台詞回しが好きなんですよね。5月のライブで「最近、悪女とか継母の役が多くて」とおっしゃっていましたが、こぶしを利かせた感じの声での悪女役、よくお似合いです(笑)

声繋がりでいくと、ピピン役の森崎ウィンさんはとにかく滑舌がいい! かなり早口でまくし立てるような台詞でも、不自然じゃなくはっきり聞こえました。あんなふうに台詞を言える人って、実はなかなかいません。有名な舞台俳優でさえ、滑舌がイマイチで(声質も関係するけど)台詞が聞き取りづらいことがわりとよくあります。ピピンの持つがむしゃらさや危うさを、等身大で演じているようでした。

稽古中はおねーさま方(中尾さん、霧矢さん、Crystalさん)にイジられていたそうです(^m^)(トークショーより)。再演ということもあり、すでに出来上がっているカンパニーに主演として入るのは相当なプレッシャーがあったと思いますが、今後が楽しみな役者さんでした。

キャサリン役の愛加あゆさんは、ブレのないロングトーンを披露。​実は中尾さんに、「伸ばせるだけ伸ばしなさい。そうすれば拍手がもらえるから!」と言われてやることになったそうです。宝塚時代(元雪組トップ娘役)は和物が似合う印象だったので、ぶっ飛んだキャサリンを見て「キャラ変わっとるがな」と思いました。でも、トークショーでの喋りを聞いていると、宝塚時代は無理して本来のキャラを抑えてたのかなと思ってしまったわ(・・;)チョットビックリ。

チャールズ役の今井清隆さんは、THE・舞台俳優という深みのあるお声。THE・王様です。ルイス役の岡田亮輔さんは、人物紹介の『精悍な戦士だが頭は少し弱い』そのも・・・いや、『頭は少し弱い』の方が前に出ていたかな。ママ(ファストラーダ)に溺愛されています。

また、テオ役の高畑遼大くん(小学校低学年ぐらい?)。物語の最後の最後に、無伴奏で少しだけ歌う場面があります。これがまたあなた、伸びやかでよく通る声なのよ! 中尾さんのアクロバットに負けず劣らずの大きな拍手が起こりました。

海外ミュージカルなので、それぞれの役に見せ場となるシーンが用意されていて、役の魅力・役者の魅力がつぶさに伝わってくる作品でした。

悲惨なシーンにあえてユーモアのある演出をすることで、戦争の愚かしさや空虚さがかえって浮き彫りになっていた気がします。規模や場所、時代を問わず、歴史上のどの戦争にも共通するであろう台詞でも、今聞くと、否が応でもかの国の皇帝を想像してしまいます。

誤解を恐れずに言うと、『ピピン』という作品は、本(特に小説や群像劇)を読み慣れていない人や、映画やドラマの『間(ま)』に含まれる意味合いや心の機微に無関心で、配信を倍速で見る人にとっては、ちょっとついていけない物語かもしれません(アクロバットだけでも十分楽しめるけど)。決して支離滅裂なストーリー展開ではないけれど、浮遊感があるとでもいいますか、虚構と現実が融合しているような作品です。

終演後、近くの席から「詰め込みすぎなんだよなー」とか「なんか話がちょっと…」とか「最後ってどういうこと?」という批判的な感想が聞こえてきました(そんな人々が周囲に合わせてスタンディングオベーションに加わるなと言いたいわ。同調圧力が怖いのかい? 観劇レポでも事あるごとに書いていますが、余韻に浸っている客だっているんだから、幕間休憩中や終演後に内容や役者についての批判は固くご遠慮いただきたいです。自分らだって、自分がいいと思った作品を、近くの人が観劇直後にコケにしてたら腹が立つんじゃないでしょうか)。

物語のテーマを台詞で言わせないのは、観客に解釈を委ねるということでしょう。

ピピンは、すぐに答えを求め、自分探しをすればするほど自分を見失っていく、青い鳥症候群の現代人のようです。

宣伝文句となっており、リーディングプレイヤーの台詞でも何度か登場する​『見たら一生忘れられないクライマックス』

一体どんなアクロバットを見せてくれるんだろう・・・と思ったのは、私だけではないですよね(;´∀`)​

クライマックスに向け、リーディングプレイヤーの立ち位置が変わっていきます。

彼女の存在は何を体現したものなのか、きっと明確な答えに行き着くことはないだろうけど、考えずにはいられませんでした。この記事を書いている今も、ふと考えて手が止まります(私は解釈を観客に委ねる作品が好きなので余韻に浸れますが、前述した「最後ってどういうこと?」と終演直後に言った近くの客のように、消化不良に陥る人もそれなりにいると思います)。

東京の13公演はコロナで中止に。大阪公演は無事に幕が開き、初日は皆さんカーテンコールで泣いたそうです。また、アクロバットチームの1人が怪我をして開幕前に休演となり、みんなでカバーしたとのこと。満身創痍で挑んでいる舞台と言っても過言ではないのではないでしょうか。

開場時に渡された、今後の公演チラシの束が分厚くて嬉しかった。
上演できることが日常に戻りつつある証拠だと思います。

それでも、中止になる公演は今も数多くある。

こんなにも素晴らしい舞台の公演数が減ることがない世の中に、早くなってほしいと切に願います。

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