ミュージカル『マリー・アントワネット』~正義とは何か。現代に通じる人々の狂気~(2021/3/3@梅田芸術劇場メインホール)【観劇レポ/感想】

舞台レポ

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”愚かな者ほど 騙されたがる
きわどい記事求める 事実よりも
希望 欲望 幻想 操るのだ
私が王になる日まで”

2幕冒頭、マリー・アントワネットを嫌う野心家のオルレアン公が歌うナンバーのサビの部分です。

オルレアン公は、国王夫妻の失脚と自らが為政者になることを目論み、民衆を使って2人を王座から追い落とします。

マリーに関する誹謗中傷や罵詈雑言を書き連ねた新聞をばら撒き、民衆を洗脳・煽動するオルレアン公(実行に移すのはジャック・エベールとマルグリット・アルノー)。自分たちには住む家も食べる物もない、なのにあいつらは贅沢三昧で好き勝手している、と、元々貴族たちに不満を募らせていた民衆は、そこに書かれていることを妄信し、暴徒と化します。

全編を通して印象的なシーンはたくさんありますが、今回一番突き刺さったのがこのナンバー。

前回、2018年に観劇したときにも同じナンバーはありました。

でも今回は感じ方が違った。

誰かをスケープゴートに仕立て上げ、自分が持つ不満のはけ口にする。
センセーショナルなだけの明確な根拠を伴わない話を、堂々と流布させる。
異質なものを排除する。

信じたいように事実をねじ曲げる。
信じさせたいように話をでっち上げる。

昨今の状況にも極めてよく当てはまる歌詞。

ヒトラーが台頭したときも、日本が太平洋戦争に突き進んだときも、世の中は同じような空気に包まれていたのかもしれない。

中には理性を保つ人もいただろう。
大局を見た人もいただろう。

だが、思考停止に陥った民衆ほど御しやすいものはない。

狂気にかられた彼らは、自ら進んで破壊工作の片棒を担ぐ。担がされているとも気づかずに。

その先に待つのは、身と世の破滅。

歴史は繰り返す。たとえ何百年が経とうとも、人間は変わらないーーー。

こんにちは。しろこです。
しょっぱなから締めのようなことを書いてみました(笑)

マリー・アントワネット』は大好きなミュージカルです。

楽しいシーンはひとつもありません。幸せな人も登場しません。胸が締め付けられるシーンがたくさんあります。いろいろと考えさせられます。

なので、万人受けするミュージカルではないかもしれません。

それでも好きなのは、出演者のレベルがめちゃくちゃ高いのと、曲。

出演している方が皆さん、主に舞台で活躍している方々なのです。

やっぱね、全然違いますよ、声とか、舞台での自然な見せ方とか(ちなみに宝塚の場合は、劇団員は全員舞台に立てる育成型なので、個々のレベルはピンきり)。

数々の舞台を観てきましたが、出演者全員(主役級からアンサンブルまで)のレベルの高さは『レ・ミゼラブル』と並んで同率1位です。

楽曲を手掛けたのはミヒャエル・クンツェ氏とシルヴェスター・リーヴァイ氏。『エリザベート』の楽曲を手掛けている2人です。

『エリザベート』の曲に魅了され、2012年に『M.クンツェ&S.リーヴァイの世界』と題されたコンサートに行き、そこで歌われた『100万のキャンドル』という曲でミュージカル『マリー・アントワネット』の存在を知りました。

芝居の内容が内容なだけに、今回の観劇レポはテンション抑えめにいきます!(でも鼻息は荒めで(^m^))

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参考情報

あらすじ

18世紀フランス。民衆が貧困に喘ぐ中、国王ルイ16世や王妃マリー・アントワネットをはじめとする上流階級の貴族たちは贅沢三昧の生活を謳歌していた。パレ・ロワイヤルで開催された舞踏会。そこに突如として飛び込んできたみすぼらしい身なりのマルグリット。マルグリットは民衆の悲惨な暮らしについて訴えるが、その場にいた誰も彼女の訴えを歯牙にもかけない。民衆のことなど一顧だにしない貴族に憤りを覚えたマルグリットは、やがて貧困のない理想の世界を追い求めてフランス革命へと進む。マリー・アントワネットとマルグリット・アルノー。住む世界が異なる2人のMAが歩む、交錯するはずのない人生。自分の目に映っていた世界は何だったのか。自分が信じていた理想は何だったのか。世界を変えるために本当に必要なものは、はたして何なのかーーー。

主な配役

マリー・アントワネット:花總まり
フランス王妃

マルグリット・アルノー:ソニン
貧しい娘。路上生活者のリーダー的存在

フェルセン伯爵:田代万里生
スウェーデン貴族。マリーの愛人

オルレアン公:上原理生
貴族。国王夫妻の失脚と、自らが為政者になることを目論む

ジャック・エベール:川口竜也
革命派の詩人、ジャーナリスト

ルイ16世:原田優一
フランス国王

レオナール:駒田一
マリーお抱えのヘアドレッサー

ローズ・ベルタン:彩吹真央
マリーお抱えの衣装デザイナー

ランバル公爵夫人:彩乃かなみ
マリーの友人。子供たちの養育係。

豆知識

意外なことに、本ミュージカルの原作は遠藤周作の小説『王妃マリー・アントワネット』、製作・世界初演(2006年)は日本である。2009年にドイツで海外初上演。その後、韓国、ハンガリーでも上演されている。

感想

オーケストラピットでの生演奏がありました。私の席から演奏している人は見えませんでしたが、音の感じからして大勢ではなさそうでした。オーケストラではなく、バンドに近いスタイルじゃないかと。

たとえ大勢での演奏でなくても、生演奏があると舞台に厚みが増す気がします。配信や録音では、空気感(劇場の温度?熱量?みたいなものや緊張感、音のゆらぎ。うーん、言葉ではうまく説明できない^^;)までは伝わりませんからね(もちろん配信してくれるのはありがたいですよ!)。

今回、主役のマリー・アントワネットやマルグリット・アルノーなど、数役はWキャストでした。

マリー・アントワネットは花總まりさん、
マルグリット・アルノーはソニンさん、
オルレアン公は上原理生さん、

で調べて、3/3夜公演のチケットを取ることにしました。平日の週半ばの夜公演に行くと、次の日の仕事がしんどいんだけど、それでもこの3人が観たいんだ!

というわけで、この3人の話を中心に進めます。

まず花總まりさん。

元宝塚トップ娘役。とはいえ、私は現役時代を知りません。

見た目の可憐さや透明感、舞台に立ったときの気品がずば抜けています。

いつだったか、花總さんのことを『生まれながらの女王のよう』と評してる記事を読んだことがあります。

・・・わかる。

前回の『マリー・アントワネット』を観たときのマリー役は笹本玲奈さんでした。なので単純に今回は花總さんのマリーが観たかったのですが・・・全く違いました。

笹本さんも素晴らしい舞台俳優です。でも、これまで両者が演じてきた役のイメージも影響しているのかもしれませんが、花總さんのマリーは、フランスに嫁いできた14歳の頃からギロチンにかけられる晩年(といっても処刑されたのは37歳のとき)までの心情や見た目の変化が観ていてよく伝わってきました。

少女からフェルセン伯爵と恋に落ちるまでが純粋無垢であればあるほど、周囲の人達に騙され民衆の怒りを買っていることを認識したときの狼狽や、一人の母親として子供を守ろうと必死になる様、フランス王妃としてルイ16世と最期まで共に在ることを決意した心の変化、どれほど冒涜されても静かに毅然とした態度を貫く強さが引き立つのでしょう。

場面場面での説得力があるとでも言いますか。そう思うと、Wキャストって酷ですね^^;

ちなみに笹本玲奈さんは、2006年の初演時にマルグリット・アルノーを演じ、菊田一夫演劇賞を受賞しています。

続いてはソニンさん。

EEジャンプというアイドルユニット?でよくテレビに出ていた…と言って、「ああ!」となる方はどれくらいいらっしゃいますかね(^-^;  『カレーライスの女』と言われて「ああ、あのCDジャケットの!」と思う方は?

多分、これをお読みの30代の方の中にはご存じの方がいらっしゃると思います。

そうです、あのソニンさんです。

相方が、まぁ、ね、ああなってからしばらくはソロ歌手をしていましたが、いつしかテレビで見ることはなくなりました。

今ではすっかり舞台俳優なんですよっ!!

初めて舞台で観たのは『1789ーバスティーユの恋人たち』だったかなぁ。キャスト一覧で名前を見て、「へ~、しばらく見なかったけど、舞台に出るんだ~」と思った記憶があります。

舞台姿を観て度肝を抜かれました。

そのときも民衆側の人を演じておりました。彼女が民衆の怒りを歌い出した瞬間、会場の空気が一変。歌い終わった瞬間、拍手喝采。どのシーンの拍手より大きかった。カーテンコールの拍手もそう。

怒り、情熱、闘争心が体中から立ち上っているとでも言いますか、迫力や圧が他を寄せ付けない。鳥肌が立って目が離せなくなる。

うーん、上手く表現できない。彼女のすごさを伝える語彙力と表現力が私には足りない( ノД`)シクシク

よし、こうなったら…

観て。そしたらわかる!←説明放棄。

前回の『マリー・アントワネット』でもソニンさんがマルグリットでした。で、「よし、今回もマルグリットはソニンの回を観る!」と思ったほど。

Wキャストのもう一人、昆夏美さんは1年ぐらい前の音楽劇『星の王子さま』で拝見していたということもありまして(Wキャストのときは、どちらのキャストも観たいんだよぉ…時間とお金に余裕があればさ。。)。

多分、すごく小柄な方だと思うんです。でも、観客を引き(惹き)込む力は誰よりも大きいと思う。ほとばしるエネルギーが目に見える気さえする。

今回は「タメすぎかな?」と感じるくらい、結構言葉をタメながら歌っている部分があったのがちょっと気になりました。個人的には、もうちょいシンプルでも良かったかなぁ。二度目のマルグリットを演じるにあたり、感情の揺れが激しくなったのがそのまま歌に乗ったのかもしれません。

感情を乗せつつしっかり発音するって、すごく難しいんだろうな(死にゆく芝居でも、本当に消え入りそうな声でセリフを言ったら、客席には届かないですもんね)。

それでも、私の中では間違いなく「鳥肌が立つほど惹き込まれる舞台俳優」です。

オルレアン公は上原理生さん。

初めて拝見したのは『レ・ミゼラブル』のアンジョルラス。全く存じ上げなかったものの、歌声で完全にノックアウト。高めのバリトンか低めのテノールか、という力強い声。調べたら東京芸大声楽科卒業でした。どうりで声が違うわけです。

『レ・ミゼラブル』では革命側の血気盛んな青年役、
『マリー・アントワネット』では野心ギラギラの目的のためなら手段を選ばない貴族、

『レ・ミゼラブル』では歌で仲間を鼓舞し、『マリー・アントワネット』では歌で欲望をあらわにする。

どちらも聞き応え抜群です。体にズシズシくる。

体格もいいし、完全に舞台向きの役者さんです。血の気の多い役はもちろん、ヒール役が似合いそう( ̄▽ ̄) 逆に、線の細い上品な役はちょっと想像できない(笑)

では、推しの紹介はこれくらいにして、そろそろ作品を通しての感想に移ります。

本作に登場するのは貴族と民衆。

無知蒙昧な者。
冷静な目を持つ者。
不穏さを感じつつも呑み込まれてしまう者。
最期に全てを悟る者。
自らの欲のために他者を道具とする者。
訳も分からず翻弄されるだけの者。
立場を越えて他者を信じられる者。
自分を差し置いてでも他者に手を差しのべる者。
時流に乗りしたたかに生き残る者。
静かに運命を受け入れる者。
どんな状況でも自分を見失わない者。

騙す者。
騙される者。

裏切る者。
裏切られる者。

利用する者。
利用される者。

この作品には、人間の愚かさ、浅ましさ、いやしさ、恐ろしさ、強さ、弱さ、高潔さなど、ありとあらゆるものが表現されています。

また、

よく知らない・会ったことすらない者への苛烈な誹謗中傷、
国が違うというだけで沸き起こる差別、
人を動かすのは理想や思想ではなく金、

など、現代にも通じる問題が要所要所で顔をのぞかせます。

客観的に見れば、マリーもマルグリットも被害者であり加害者です。でも、両者とも自分が加害者であるという認識はありません(マルグリットは物語の終盤にその事実に気づきはじめます)。

一方にとっての正義は、他方にとっての悪であり得る。

繰り返される戦争や宗教対立を見れば自明のことでしょう。

マリーとマルグリットのデュエットナンバーにこんな歌詞があります。

”違うというだけで 決めつけないで”

この言葉に、この世のいさかい全ての元凶が凝縮されているような気がしてなりません。

ーーーーーーーーーー
平日の仕事終わり。
劇場は暗いし暖かいし椅子は柔らかいしで、開演までは睡魔との戦いでした。でも上演中はアドレナリン出まくり。

いろんなところで値引きしたチケットが売られていました。さらに、学生の団体客が入っていることをウェブサイトで告知していたので、チケットの売れ行きが芳しくないんだろうなと思ってはいたものの、あんなガラガラの梅田芸術劇場(メインホール)は見たことがありませんでした。2階席、3階席なんて、お客さん居たのかしら・・・。

それでも最後はスタンディングオベーション。たまに、周りが立つから自分も立つ、みたいな時間差があるスタンディングオベーションもありますが、今回は多くの人の自発的なスタンディングオベーションだったように思います。

無事上演できたこともそうですが、現代にも当てはまる部分がある話だからこそ、カーテンコールでの役者の皆さんの笑顔がひときわ輝いて見えました。拍手も、観客の少なさを感じない大きさでした(私も手が痒くなって腕がプルプルするくらい拍手しました)。

「舞台とか本って何がいいの?」「何でそんなに好きなの?」と聞かれたことがあります。そのときは「好きに理由なんてない。好きなものは好きなの」くらいにしか答えなかったかな。

いつ誰に聞かれたのかも忘れたけど、劇場からの帰り道、それをふと思い出して考えてみました。

私が舞台や本が好きなのは、きっと登場人物を通して誰かの人生を疑似体験できる気がするからだと思います。そして自分が生きる現実で同じような状況になったときに、起こっていることを少なからず俯瞰できるから。登場人物たちが体験したことを、自分の人生における考え方の糧や指標にすること、反面教師にすることができるから。

・・・かな (^^)

と、カッコいいことを思ってみましたが、ただの現実逃避かもしれません:-p

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