~死を前に、生を知る~宝塚歌劇月組公演『ブラック・ジャック 危険な賭け』(2022/12/4@楽天TV)【観劇レポ/感想】

宝塚レポ

本記事には芝居のネタバレを含みます。

※本記事には広告が含まれています。

こんにちは、しろこです。

雑記ブログと言いながら、観劇レポが占める割合が多い『まるかて。』

そして観劇レポの中でも、宝塚の観劇レポが占める割合が多いです。はい、自覚ありです(^_^;)

だって好きなんだもん。

波(宝塚熱)が来たのは、多分10年ぐらい前。そんなしろこの宝塚最古の記憶が、本作『ブラック・ジャック 危険な賭け』(1994年花組。主演:安寿ミラさん)です。

宝塚好きの母親に連れられて、日帰りの団体旅行で大劇場へ。「なんだこのカッコよさは…!?」と思い、1度目の波が到来しました。

家に『ブラック・ジャック』の漫画があったので、暇さえあれば読んでましたね、、、9歳の子供が(笑)あの作品が持つメッセージ性が分かっていたとは思わないけれど、当時3大巨頭だった少女漫画雑誌(りぼん、なかよし、ちゃお)に掲載されている作品とは明らかに違うということだけは、子供ながらに分かっていました(そりゃそうか)。

・・・ま、そりゃ浮くわな(;´∀`) 私の世間一般とのズレは当時からあったんだと、今となってはよく分かります。

子供の頃に見ていたアニメがリバイバルされて、大人になってから見ると、感じ方が違うことがあると思います。「悪役にも事情があったんだな…」とか「目立たないキャラの方が実はすごいんだ」とか。

それと同じで、今の時代に大人になった自分が見ると、ブラック・ジャックの根底にある想いだったり、考え方だったり、信念だったりに強く惹かれました。元国連難民高等弁務官の緒方貞子さんを表す言葉に『Cool head, warm heart』というものがありますが、ブラック・ジャックの人間性もまさにそうなのでしょう。

本記事には芝居のネタバレを含みます。

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あらすじ

1980年代、かつて英国領だった南米の某国。ヴィクトリア女王を戴く立憲君主制国家で軍事クーデターが起こる。エンリケ将軍が女王を暗殺し、全世界に独裁を宣言した。しかし、女王は死んではいなかった。瀕死の女王の命を救ったのは、英国情報部により手術を依頼されたブラックジャック。成功したかに見えたクーデターは失敗に終わったのだ。天才的な腕で女王を救ったブラック・ジャックは、一躍有名になる。その頃、ロンドンでは賭け屋のケインがクーデターが起こるかどうかを賭けにして売り出していた。クーデターが失敗に終わったことで、賭けに負けた武器商人から恨みを買うことを懸念したケイン。相棒のジョイと共にほとぼりが冷めるまで外国に逃れようと向かった空港で、突然の発作で倒れてしまう。そこに南米から帰国したブラック・ジャックが通りかかり、応急処置をする。その後、女王の手術代を受け取るために英国情報部を訪れたブラック・ジャックは、手術代を持ってきたアイリス中尉を見て動揺する。早々に情報部を立ち去ったブラック・ジャックを追いかけてきたアイリスは、彼にある人物の一枚のレントゲン写真を見せ、手術を依頼するが……。

主な配役

ブラック・ジャック:月城かなと
天才的な腕を持つ無免許医。

アイリス/如月恵:海乃美月
英国情報部の中尉/ブラック・ジャックの元恋人

スノードン卿:凛城きら
英国情報部部長。

サザランド:光月るう
武器商人。

ケイン:風間柚乃
賭け屋。元英国情報部員。

ジョイ:礼華はる
ケインの相棒。

海乃さんが一人二役で演じる如月恵は、原作漫画に登場する女性です。ブラック・ジャックが研修医だった頃の同僚で、相思相愛だったと思われる描写があります。恵は子宮がんにより子宮を摘出(摘出手術をブラック・ジャックが行う)。男として生きることを決意し、ブラック・ジャックのもとを去ります。その後、船医となった恵とブラック・ジャックが邂逅するエピソードもあります。

全体を通しての感想

たしか、雪組で『ブラック・ジャック』を演る(2013年。主演:未涼亜希さん)と知ったときも、花組『ブラック・ジャック』のことを思い出しました。雪組のは花組の再演ではなく、主題歌の『かわらぬ思い』だけは踏襲しつつも、副題を『許されざる者への挽歌』とする新作でした。幸運にもチケットが取れて、初めてシアター・ドラマシティで観劇。未涼さん、歌も芝居も上手くて大好きでした。

今回の月組『ブラック・ジャック 危険な賭け』は、1994年に花組で上演された作品の再演。

1994年に『ブラック・ジャック』を大劇場で観劇したことは覚えているけれど、内容はほとんど覚えていません。なんせ28年前、当時9歳でしたから(ーー;) それが、月城ブラック・ジャックの登場シーンを皮切りに、「あ、このシーンあった!」「うんうん、この感じだった!」と、忘れていたはずの舞台の記憶が一気に蘇ってきました。

それだけ鮮烈な印象だったんだろうなぁ。

宙組『ホテル スヴィッツラ ハウス』の考察で、『ほんの数分の出来事が心に深く刻み込まれ、一生忘れることのないものとなりうるのである』と書きましたが、自分で書いておいて「まさにこのことだよ…」と思いました(『ほんの数分の出来事』ではないけど)。もしかして、私の舞台好きの原点は、花組『ブラック・ジャック』だったのかもしれない…。

冒頭で書いた『Cool head, warm heart』のブラック・ジャックを、月城さんが体現してくれました!

一見すると冷徹で近寄り難く喜怒哀楽がなさそうですが、時折垣間見える誰よりも熱い信念を持った理知的な人物。でも、原作漫画にもあるように、時々ギャグめいたこともする(巻き込まれてギャグっぽくなる)魅力的な人物。芝居巧者の月城さんにピッタリです。

漫画でも、考えさせられる台詞やこう有りたいと思うシーンはあるけれど、実際に生身の人間の口から発せられると、言葉の持つ力が増す気がします。

だからといって、声の大きい人間やよく喋る人間に騙されてはいけません。

実際にブラック・ジャックがいたら、こんな雰囲気なのかなと思いました。孤高の人でありながら、ものすごく人間臭い一面もある。彼が持つ正反対の魅力が詰まった芝居でした。

海乃さんは、トップ娘役に就任されてから全くタイプの違う女性を演じています。『川霧の橋』のお光、『今夜、ロマンス劇場で』の美雪、『グレート・ギャツビー』のデイジー、そして本作『ブラック・ジャック』のアイリス。

アイリスは今風に言うとバリキャリ。常に背筋が伸びていて、鎧をまとった雰囲気のある女性。自分をかばって大怪我をし、情報部を辞め、賭け屋になったケイン(体内に銃弾の破片が残っている)のために一生懸命なのに、どこか独りよがりに感じる部分もある。そこをブラック・ジャックに見透かされ思い悩む。人質に取られたジョイを救わんがために機密情報を盗もうとするケインに対し、一人の女性としてではなく、あくまでも情報部の人間として職務に忠実であろうとする。クールな見た目とは裏腹に、結構感情の起伏がある役です。

正直、海乃さんにアイリスのような女性のイメージはなかったんですが、、、こういう役もイケるのね(^^)b

風間さんは、やっと中堅といえる学年に差し掛かったぐらいなのに、芝居も歌もものすごい安定感です。ケインは、ブラック・ジャックやアイリスほど確固たる芯がある人物ではないように見受けられます。なんてったって、英国情報部を辞めて賭け屋、それも、他の賭け屋が賭けに出せないような内容のもの(作中ではクーデター)を扱う賭け屋になってるわけですから。

登場人物の中では、一番感情を表に出す役です。ヘラヘラしているときもあれば、シリアスになるときもあり、相棒を助けるために孤軍奮闘したり、アイリスの自分に対する想いを感じてかえって自暴自棄になったり。ラストでアイリスが撃たれて重体となるものの、ブラック・ジャックのオペで命の危険を脱したことが分かると、憑き物が取れたかのように力が抜けた芝居になります。巧いよねぇ。。巧いわぁ。。

宝塚オリジナルキャラの『ブラック・ジャックの影』を演じたのは、一輝翔琉さん。2021年初舞台だそうです。全国ツアーは、本公演ではまだ役がつかない下級生も活躍できる場ではあるけれど、2年目でトップさんの影を演じるとは、期待の新人ということでしょうか。

死を前に、生を知る。

何かのキャッチコピーのようですが、二度地獄を見た、他でもない私自身が感じることです。

自分の死だったり、誰かの死だったり、「死」というものに触れると、時間は有限だと身をもって感じます。

いつか死ぬ。

その「いつか」は、今日かもしれないし、数十年後かもしれない。

病院で死ぬかもしれないし、見知らぬ土地で死ぬかもしれない。

毎日顔を合わせている人も、今この瞬間が生きて会う最後かもしれない。

家で誰かを看取ることが少なくなったことが関係しているのか、いつしか日本では「死」がタブー視されるようになった気がします。死に様から感じるものは、何物にも代え難いはずなのに。

『ブラック・ジャック』は、生とは何か、死とは何かを問う作品です。

でも、決してシリアス一辺倒な作品ではありません。

原作に触れたことがない方、ぜひ1冊読んでみてください。

非常にテーマ性のある作品なだけに、外箱ではなく大劇場で上演してほしかったです(;_:)

なお、本作は、ショー『FULL SWING!』との2本立て。いつもの半分のメンバーで、地方の劇場という物理的に限られたステージでの上演でも、初めて宝塚を観る人は想像を超えるキラキラ感に圧倒されるはず! コロナになってからは、地方公演恒例の客席下りはありませんが、「こ、これが宝塚か…!」と衝撃を受けたことでしょう^^

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